設計事務所の案件管理|相談から完了までの台帳
· 編集:KMC株式会社
設計事務所の案件管理台帳を、相談受付から完了まで一貫して使う方法を解説します。案件状態、次の行動、担当、期限、判断待ちを記録し、工程表や工数表と使い分ける実務手順です。
案件管理は「今どこにあり、次に誰が動くか」をそろえる
設計事務所の案件は、相談、現地確認、提案、契約、設計、申請、見積調整、工事監理と長く続きます。案件名と担当者だけの一覧では、動いている案件と返答待ちの案件を区別できません。反対に、細かな作業をすべて一枚へ書くと、重要な判断待ちが日々のタスクに埋もれます。
案件管理台帳の役割は、各案件の現在地と、次に状態を変える行動を一行で把握することです。管理する単位は図面一枚やメール一通ではなく、顧客との相談から業務完了までの案件です。個人の予定表ではなく、窓口担当、設計担当、所長が同じ状態を読める共有索引にします。
工程表・タスク表・工数表との違い
似た表を一つへ詰め込むと更新が続きません。用途を分けて、案件台帳から詳細表へ移れるようにします。
| 管理表 | 答える質問 | 主な単位 | 更新する場面 |
|---|---|---|---|
| 案件管理台帳 | この案件は今どの状態か | 案件 | 相談、承認、保留、完了時 |
| 工程表 | 成果物をいつ出すか | 段階・節目 | 契約、日程変更、外部回答時 |
| タスク表 | 誰が次に何をするか | 作業 | 着手、完了、差戻し時 |
| 工数表 | 何に時間を使ったか | 時間記録 | 作業後または日次 |
たとえば「基本計画中」は案件の状態です。「10月20日に配置比較を提出」は工程、「測量図の未受領を確認」はタスク、「配置比較に3時間」は工数です。台帳には四つすべてを書き込まず、詳細の保存先をリンクします。
台帳に置く12項目
最初から多くの列を作るより、判断と連絡に使う項目へ絞ります。
| 項目 | 記入内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 案件ID | 名称変更に影響されない番号 | S-026 |
| 案件名 | 社内で識別できる短い名称 | A社事務所移転 |
| 相談目的 | 顧客が次に決めたいこと | 候補物件を比較する |
| 現在段階 | 共通の状態名 | 初期提案準備 |
| 状態日 | その段階へ移った日 | 2026-10-13 |
| 案件責任者 | 全体判断の窓口 | 設計担当A |
| 次アクション | 状態を変える一手 | 既存図の不足を顧客へ照会 |
| 実行担当 | 次アクションを行う人 | 窓口B |
| 期限 | 実行または確認する日 | 2026-10-16 |
| 待ち先 | 回答を待っている相手 | 顧客総務担当 |
| 次回判断 | 何を決めるか | 現地調査へ進むか |
| 詳細リンク | 案件要約、工程、フォルダ | 案件要約のURL |
「進行中」「対応中」のような状態は避けます。初めて見る人が何を待っているか分からないためです。現在段階は共通語、次アクションは動詞で書きます。
状態は案件の節目で定義する
状態名は、自社の受任範囲に合わせて決めます。次は初回相談から設計業務までを扱う例です。
- 新規相談:問い合わせを受け、目的と期限を確認している。
- 判断待ち:受任可否や次回面談を社内で判断している。
- 提案準備:初期案、概算範囲、業務内容を準備している。
- 顧客回答待ち:資料を出し、相手の判断または追加資料を待っている。
- 契約準備:業務範囲、成果物、日程、報酬条件を確認している。
- 設計中:契約した段階の成果物を作成・確認している。
- 外部回答待ち:行政、協力事務所、施工者などの回答を待っている。
- 保留:再開条件と連絡日を合意して止めている。
- 完了:成果物、精算、保存、振り返りを終えた。
状態を細かくしすぎると担当者ごとに解釈が変わります。「実施設計30%」のような進み具合は工程表へ置き、台帳では成果物や相手の判断によって状態を切り替えます。
相談受付から登録する手順
1. 重複を検索する
会社名だけでなく、所在地、担当者、相談目的で既存案件を検索します。別の窓口へ同じ相談が届いている場合に、二つの案件として提案を進めないためです。既存案件の追加相談なら、別契約になる可能性があっても、まず親案件との関係を記録します。
2. 目的と判断期限を一文にする
「事務所新築の相談」ではなく、「翌月の役員会で候補地の検討継続を判断する」のように書きます。相談の目的は建築ヒアリングシートの記録から転記し、聞けていない場合は次アクションを「判断目的を確認」にします。
3. 責任者と次アクションを一人ずつ置く
責任者欄へ「設計部」と書くと質問先が決まりません。案件全体の窓口を一人、次の作業を実行する人を一人置きます。作業を複数人へ渡す場合も、完了確認者を決めます。
4. 期限と待ち先を分ける
顧客回答待ちでも、社内の確認日を置きます。「回答が来るまで待つ」ではなく、「16日までに回答がなければ窓口Bが状況を確認」とします。相手が決める期限と、自社が見直す期限を混ぜません。
5. 詳細資料へリンクする
台帳へ長い議事録を貼らず、案件要約、最新工程表、正本フォルダを開けるリンクを置きます。AI利用を含む資料の保管と権限は設計事務所のAI情報管理も確認してください。
一行の記入例
S-026|A社事務所移転|初期提案準備|責任者A|次:販売図面と現況写真の差を確認|担当B|10月16日|測量図は顧客回答待ち|次回判断:現地調査へ進むか|案件要約リンク
この一行から、誰に聞けばよいか、次の期限はいつか、何が止めているかが分かります。面積や予算の詳細は案件要約へ置き、台帳の一覧性を保ちます。
毎週の更新手順
週次確認では全案件を順に読み上げません。期限超過、次アクションなし、状態日が古い、担当未設定の行を先に抽出します。各行で確認するのは次の四点です。
- 現在段階は実態と一致するか。
- 次アクションは一つの動詞で書けるか。
- 担当と期限は埋まっているか。
- 待ち先があるなら、再確認日はあるか。
会議中に図面の設計判断へ入り込まず、別の検討時間と担当を決めます。完了案件は一覧から消す前に、最終成果物、契約上の終了、請求・精算、保存先、次回に残す学びを確認します。
よくある失敗と防止策
| 失敗 | 起きること | 防止策 |
|---|---|---|
| 状態を自由入力にする | 同じ意味の語が増える | 選択肢と判定条件を決める |
| 担当を複数名にする | 誰も次へ動かさない | 実行担当と確認者を分ける |
| 期限を空欄にする | 回答待ちが放置される | 自社の再確認日を必須にする |
| 台帳を議事録にする | 一覧で読めなくなる | 要約と詳細リンクに分ける |
| 完了を受注・失注だけで決める | 保存や精算が残る | 完了チェックを通して閉じる |
AIを使うなら状態更新の候補出しまで
相談メールや議事録から、案件ID、決定、宿題、担当、期限の候補を抽出する使い方は考えられます。ただし、メールに期限が書かれていないからといってAIに日付を補わせません。顧客の発言と社内判断を区別し、担当者が台帳へ反映します。自動更新より、更新候補と原文を並べて承認する方が、案件状態の誤変更を見つけやすくなります。
よくある質問
案件台帳はExcelでも運用できますか
できます。担当、状態、期限を選択式にし、詳細資料へのリンクを置ければ始められます。複数人が同時更新する場合は、正本ファイルと権限を一つに決めます。
見込み案件と契約後案件は分けるべきですか
一覧の表示は分けても、案件IDと履歴は連続させる方が相談時の判断を追いやすくなります。契約時に業務範囲が大きく変わる場合は、親子関係を残して別案件にします。
顧客回答待ちを期限超過に含めますか
顧客の回答期限と、自社が状況確認する日を別に置きます。相手待ちでも自社の再確認日を過ぎたら、確認対象として抽出します。
小規模事務所でも責任者と担当者を分けますか
同じ人でも構いません。ただし欄を分けると、「作業した」ことと「案件として次へ進めてよい」ことを別の視点で確認できます。
案件を削除するのはいつですか
一覧からは完了後に非表示にしても、台帳記録と成果物の所在は保存方針に従って残します。誤登録は削除理由と承認者を記録し、通常の完了と区別します。
一次資料で確認できること
- 国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」:建築生産を業務区分で捉え、担い手、情報共有、プロセス間の受渡しを整理しています。
- AIA「Keys to classifying project files」:建築事務所の案件ファイル例として、工程、チェック、費用、会議記録、各分野情報などの分類を示しています。
上記は標準ワークフローと資料分類の考え方を確認する一次資料です。本記事の12項目、状態名、週次抽出条件は、小規模な設計事務所が案件の現在地を共有するための実務提案であり、両資料が指定する様式ではありません。自社の契約、業務範囲、保存規程に合わせて調整してください。
AIA資料は米国の職能団体による参考資料です。国内案件では日本の法令、建築士業務の条件、契約書、発注条件を優先し、相談項目や確認手順の参考として利用してください。
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