設計案の比較表|面積・予算・使い方を揃える
· 編集:KMC株式会社
建築の代替案を同じ前提で比べるために、面積、予算条件、使い方、未決事項を一枚にまとめる方法を、比較例と判断手順で解説します。
設計案を複数提示しても、図面の印象だけを並べると判断が長引きます。A案は面積を広く取り、B案は設備仕様を高くし、C案だけ外構を含むという状態では、費用差の理由が案の特徴なのか、前提の違いなのか分かりません。
比較表の役割は、案を一つに決めることではありません。同じ条件で比べられる項目と、案ごとに異なる条件を分け、施主が何を優先して選んだかを残すことです。ここでは小規模な事務所新築を例に、平面、面積、概算、使い方、将来対応をそろえて比較する方法を説明します。
比較前に固定する共通条件
最初に、全案で共通にする条件を表の上部へ記載します。条件が変わった場合は、比較表の版も更新します。
| 共通条件 | 記入例 | 確認状態 |
|---|---|---|
| 計画目的 | 事務所の移転と来客対応の改善 | 承認済み |
| 敷地・建物条件 | 敷地測量図は受領、地盤条件は未確認 | 一部未確認 |
| 当初利用人数 | 執務18人、来客会議最大8人 | 承認済み |
| 将来想定 | 5年後に執務24人を想定 | 仮定 |
| 概算の価格時点 | 2026年10月時点の条件で整理 | 承認済み |
| 工事範囲 | 建築、電気、機械設備を含み、什器と移転費は別途 | 承認済み |
| 未確認事項 | 地盤、引込容量、行政協議、外構排水 | 要調査 |
共通条件に未確認事項があること自体は問題ではありません。未確認であることを明記し、各案に同じ仮定を置くことが重要です。調査結果によって一案だけが大きく変わる可能性があれば、そのリスクも比較項目にします。
比較項目は四つの層に分ける
比較表を「良い、普通、悪い」の評価だけにすると、評価理由が残りません。次の四層で具体的な値や条件を記録します。
- 量の比較:延べ面積、室数、席数、収納量、駐車台数など
- 使い方の比較:動線、視線、音、時間帯、将来変更のしやすさなど
- 費用条件の比較:概算に含む範囲、別途項目、未確定項目、価格時点など
- 実現条件の比較:法令等の確認事項、調査、行政協議、工程への影響など
法適合は比較表の記号だけで判定しません。各案について、資格者が関係法令、敷地、用途、規模、構造、設備などを個別に確認します。比較初期に未確認なら、適合を保証する表現を避け、「確認が必要な論点」として示します。
比較表の記入例
三つの案を検討する場合、採点より先に事実と差分を記録します。
| 比較項目 | A案:来客分離 | B案:一体利用 | C案:将来増床対応 | 確認方法 |
|---|---|---|---|---|
| 延べ面積 | 420平方メートル | 395平方メートル | 410平方メートル | 面積表 |
| 執務席 | 当初18、増席22 | 当初18、増席24 | 当初18、増席24 | 家具配置図 |
| 来客動線 | 執務室を通らない | 受付から執務室前を通る | 会議室へ直接誘導 | 動線図 |
| 会議室 | 8人室1、4人室1 | 可動間仕切りで1室 | 8人室1、共用席で補完 | 利用場面の確認 |
| 将来変更 | 執務室内の配置変更 | 間仕切り変更が必要 | 増床接続位置を確保 | 将来人数の仮定 |
| 概算条件 | 来客区画の間仕切りを含む | 可動間仕切りを含む | 接続準備の範囲を含む | 同一価格時点で更新 |
| 主な未確定 | セキュリティ区画 | 遮音性能 | 将来増床の時期 | 担当と期限を設定 |
この表だけで優劣は決めません。たとえばB案は面積が小さくても、可動間仕切りや遮音条件によって費用が単純に下がるとは限りません。C案も、将来増床への準備範囲をどこまで当初工事に含めるかで概算が変わります。「小さいから安い」「設備が少ないから早い」と結論を飛ばさず、数量、仕様、工事範囲を確認します。
比較表を作る手順
1. 比較の目的を一文にする
「施主に選んでもらう」では広すぎます。「来客動線の分離と将来24席への対応を、概算条件と合わせて選ぶ」のように、今回決める論点を書きます。目的と関係の薄い詳細は次段階へ回します。
2. 各案の前提差を抽出する
面積、用途、構造、仕上げ、設備、外構、工事区分、価格時点を確認します。前提が異なる項目は、無理に同じ評価へまとめず、差分として表示します。概算が未更新の案には、更新前の金額を並べず「更新中」と記載します。
3. 図面と表のIDを合わせる
図面上の案名、面積表、概算書、比較表の案名を一致させます。A案の改訂後をA'、A2など事務所ごとに決めた規則で管理し、比較表に図面日付と版番号を記載します。古い図面と新しい概算を組み合わせないためです。
4. 評価理由を文章で残す
丸印だけでなく、「受付から会議室へ執務区画を通らず移動できる」「将来増席時に収納を別室へ移す必要がある」のように、利用場面を書きます。判断者が変わっても意味をたどれます。
5. 決定と保留を分ける
採用案、採用理由、採用しなかった案の主要理由、保留事項、次回確認日を記録します。採用後も、未確定条件が解消したときに比較へ戻れるよう、元資料を保存します。
概算を並べるときの確認項目
案ごとの概算を比較する場合、総額だけでなく範囲をそろえます。
| 確認欄 | 内容 |
|---|---|
| 価格時点 | いつの市場条件で整理したか |
| 工事区分 | 建築、電気、機械設備、外構、解体などの範囲 |
| 別途 | 什器、移転、負担金、調査など比較外の項目 |
| 仮定 | 数量や仕様が未確定のため置いた条件 |
| 除外 | 概算に含めていない内容と理由 |
| 変動要因 | 調査、協議、仕様決定で変わり得る項目 |
建設物価の変動を把握する公的な指標は、個別案件の見積額を自動的に補正する率ではありません。また、企画段階の概算は、設計が進んだ後の数量や仕様に基づく見積と精度や前提が異なります。各案の価格時点と条件を明記し、条件変更後は概算見積の更新履歴で差額理由を残します。
判断が割れたときの分岐
複数の評価軸で結論が分かれる場合は、平均点で決めず、次の順に確認します。
- 必須条件を満たせない案があるなら、条件の根拠と代替策を確認します。
- 未調査事項で結論が逆転し得るなら、調査後まで決定を保留します。
- 予算差が主因なら、各案の範囲と仕様をそろえて概算を更新します。
- 使い方の評価が割れるなら、利用者、頻度、時間帯を置いた場面で比較します。
- 将来想定が主因なら、当初対応と将来工事を分け、いつ誰が判断するかを決めます。
すべての評価を一度に確定できない場合は、「平面構成はA案を基準にするが、設備方式は継続比較」のように判断単位を分けます。ただし、相互に影響する項目を切り離すときは、再確認する期限を設定します。
設計者の説明と施主の決定を分ける
設計者は、各案の特徴、前提、未確認事項、影響を説明します。施主は、事業目的や運用上の優先度を踏まえて判断します。比較表の決定欄には、設計者の推奨理由と施主の採用理由を混同せず記載します。
国土交通省の業務報酬基準は、設計条件等の整理、設計条件の変更等の場合の協議、基本設計方針の策定と説明などを標準業務として示しています。具体的な業務範囲と成果物は個別契約で定めるため、比較案の数や比較表の作成が常に同じ範囲に含まれるわけではありません。着手時に設計業務範囲の整理で確認します。
AIで比較表の下書きを作る場合
AIは、同じ見出しへの転記、空欄の抽出、案ごとの文章差分の確認に使えます。一方、図面から面積や法適合を自動確定したり、一般条件だけで構造計画や設備容量を保証したりはできません。入力資料の版を指定し、生成結果を担当設計者が原資料と照合します。初期提案での注意点は間取りAIと初期提案も参照してください。
よくある質問
Q1. 比較案はいくつ用意すればよいですか
決まった数はありません。判断したい論点が明確になる数に絞ります。差が説明できない案を増やすと確認負担が増えるため、各案の狙いを一文で示せるか確認します。
Q2. 金額だけを先に比較してもよいですか
工事範囲、価格時点、面積、仕様、別途項目が同じか確認してから比較します。条件が違う場合は総額だけを並べず、差の要因を先に示します。
Q3. 評価を点数化すると選びやすくなりますか
点数化は補助にはなりますが、配点の根拠と評価理由が必要です。必須条件と希望条件を同じ加点項目にせず、重大な未確認事項を高得点で打ち消さないようにします。
Q4. 採用しなかった案の資料も残しますか
残します。案名、図面版、概算版、主要な不採用理由を保存すると、条件変更時に再検討しやすくなります。個人の感想ではなく、当時の判断条件を記録します。
Q5. 比較中に要求が変わった場合はどうしますか
全案へ同じ変更を反映できるか確認します。比較の結論に影響する変更なら、要求一覧と比較表の版を更新し、変更前の結論をそのまま使いません。要求管理の方法は建築の要求整理を参照してください。
参考資料
この業務でAIを試すには
業務の条件と確認方法を整えたら、関連するAI活用の手順を確認できます。
概算条件の比較にAIを使う|前提を揃える手順 →