設計事務所の原価管理|案件の工数と外注費を集計
· 編集:KMC株式会社
設計事務所の案件原価を、実績工数、外注費、直接経費に分けて記録する方法を解説。工事原価や税務処理と分けた運用例を掲載します。
設計事務所の原価は工事原価と分ける
設計事務所が案件別に把握したい原価は、設計業務へ投入した工数、構造・設備などの外注、交通や複写などの直接経費です。施工者が材料費、労務費、施工外注費を集計する工事原価とは対象が違います。建物の概算工事費と、自社が設計業務を行うために発生した負担を同じ表で管理しません。
本記事は経営管理のための業務記録を扱います。会計科目、税務上の原価、仕掛品評価などは自社の会計方針と専門家へ確認してください。業務台帳の数字を、そのまま決算処理へ転記する方法は扱いません。
最小の原価台帳
| 記録区分 | 必須項目 | 記入例 |
|---|---|---|
| 社内工数 | 日付、担当、工程、作業、時間 | 基本設計、平面レビュー、1.5時間 |
| 外注 | 依頼先、業務範囲、発注額、変更 | 構造基本検討、変更1回 |
| 直接経費 | 種類、発生日、目的、案件番号 | 現地調査交通費 |
| 追加対応 | 変更番号、工数、外注、経費 | CHG-07に紐付け |
| 見積基準 | 見積時工数、外注想定、前提 | 成果物別に保存 |
担当者名だけでなく工程を入れます。基本設計、実施設計、申請、工事監理、追加対応など、自社で比較したい粒度に統一します。「作業一式」「雑務」ばかりでは、どこで負担が増えたか分かりません。
工数記録の単位をそろえる
人日と時間が混在すると比較できません。入力は時間に統一し、必要な集計時に自社で定めた換算方法を使います。国土交通省の業務報酬基準では、直接人件費を業務に従事する者の人件費の日額と延べ日数で考える実費加算方法が示されていますが、自社の時間単価や配賦方法を自動的に決めるものではありません。
時間記録には開始・終了時刻より、案件へ使った時間と作業内容を残す方法もあります。移動、社内レビュー、顧客連絡を含むかを社内ルールで決めます。同じ作業を担当者ごとに別分類すると、集計しても意味が変わるためです。
外注費は請求書待ちにしない
原価台帳へ外注費を入れるのが請求書受領後だけだと、業務中の負担を見誤ります。発注時に予定額と範囲を登録し、変更時に更新し、請求書受領時に実績を照合します。
| 時点 | 記録すること |
|---|---|
| 見積 | 外注が必要な分野、想定範囲、仮額 |
| 発注 | 依頼先、成果物、納期、発注額 |
| 変更 | 追加・削除、理由、金額・日程影響 |
| 検収 | 受領版、修正状況、完了日 |
| 請求受領 | 請求額、発注・変更との一致 |
設計事務所が外注先の成果物を統合する調整工数も、社内工数として別に残します。外注費だけ見て安い・高いと判断せず、受渡しや再確認に使った時間を含めて振り返ります。
集計手順
- 案件開始時に案件番号と見積基準を登録する。
- 担当者は週内に工数を入力し、未分類を残さない。
- 外注は発注時に予定、変更時に改訂、完了時に実績を入れる。
- 直接経費は目的と案件番号を付ける。
- 月次または設計段階の終了時に見積との差を確認する。
- 案件終了時に超過理由を分類し、次の見積へ戻す。
入力を細かくしすぎると続きません。最初は「工程」「成果物」「追加番号」の3軸で始めます。原因を調べられない場合だけ分類を増やします。集計表のために作業時間を増やすのではなく、見積や担当調整に使う項目だけ残します。
記入例:基本設計の週次集計
| 工程 | 見積工数 | 今週実績 | 累計実績 | 差の説明 |
|---|---|---|---|---|
| 与条件整理 | 自社見積値 | 入力値 | 累計 | 未回答条件の整理を継続 |
| 平面検討 | 自社見積値 | 入力値 | 累計 | 第3案は追加番号へ分離 |
| 社内レビュー | 自社見積値 | 入力値 | 累計 | 設備条件の再確認あり |
| 顧客説明 | 自社見積値 | 入力値 | 累計 | 次回会議後に更新 |
記事上で架空の利益率や標準工数は示しません。表には自社の見積値と実績を入力し、差の理由を文章で残します。中小企業庁の資料でも、製品・商品・サービス別など詳細な原価管理に取り組む重要性が示されていますが、他社の数値を自社の目標率として流用しません。
判断分岐:差が出たとき
- 当初の作業分解が不足していたなら、次回見積の成果物分解を直す。
- 顧客条件の変更なら、追加番号へ工数を移し変更管理を確認する。
- 社内レビューのやり直しなら、原因となった入力不足や承認順序を見直す。
- 外注の手戻りなら、依頼資料、成果物定義、検収方法を確認する。
- 待ち時間が長いだけなら、工数超過と日程遅延を分ける。
- 分類ミスなら実績を消さず、修正履歴を残して付け替える。
工数入力の具体例
同じ打合せでも、目的によって記録先が変わります。顧客へ計画案を説明した時間は顧客説明、会議前に平面の不整合を確認した時間は社内レビュー、追加案の条件を聞いた時間は変更番号へ記録します。カレンダーの予定名をそのまま工数分類にせず、実際に行った作業へ分けます。
10月13日、案件A、基本設計、顧客説明、1.0時間。平面2案と面積表を説明。追加依頼CHG-07の聞き取り0.5時間は別行で記録。
移動中に別案件へ電話した場合も、まとめて現地調査時間にしません。厳密な分単位へ細分化するより、判断に使える単位で案件と作業を正しく分けます。
月次締め前の未入力チェック
工数表だけを見ても、入力漏れは見つけにくいため、予定表、会議記録、成果物更新、外注との連絡を突き合わせます。会議はあるのに工数がゼロ、図面版が進んだのに作図・レビュー記録がない、といった不一致を担当者へ返します。
| 照合元 | 見つける不一致 |
|---|---|
| 予定表 | 会議・現地確認の未入力 |
| 図面履歴 | 作図・レビュー工数の未入力 |
| 変更受付 | 追加番号の付け忘れ |
| 外注記録 | 調整・検収工数の未入力 |
入力漏れを推定時間で一括補完せず、担当者が事実を確認します。確認できない場合は「未確認」と残し、確定値へ混ぜません。
案件終了時の原価メモ
終了時には、最も工数を使った工程、見積との差が大きかった成果物、外注変更、追加業務、次回の質問を一枚にまとめます。詳細な日次記録をそのまま次回担当へ渡すより、原記録へたどれる要点を残します。平均値を作る前に、用途や規模だけでなく、関係者数、既存図の有無、申請・調整範囲が似ているかを確認します。
AIツール導入の原価も同じ台帳で見る
AI導入では利用料だけでなく、資料整備、確認、修正、教育、運用管理の工数も記録します。出力までが速くても、人の確認が増えれば案件負担は減りません。AI導入デモの準備を使い、従来作業と試行作業を同じ成果物単位で比較します。
よくある質問
残業時間だけ記録すれば原価を把握できますか
通常時間も含め、案件に使った工数を同じ定義で記録します。残業だけでは案件全体の投入量が分かりません。
間接業務はどの案件へ付けますか
自社ルールを決めます。案件固有の会議やレビューと、全社管理を区別し、担当者ごとに判断が変わらないようにします。
工事費の原価表と統合してよいですか
設計業務の原価と施工の工事原価は対象が違います。設計施工会社でも部門・目的を分け、同じ名称で混同しないようにします。
工数入力が遅れる場合はどうしますか
週内入力など締切を短くし、分類を減らします。月末に記憶でまとめて入力する運用は原因分析に向きません。
原価台帳から請求額を決められますか
原価は判断材料の一つです。契約、業務範囲、業務報酬基準、自社方針を確認し、台帳だけで請求額を自動決定しません。
参考資料
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