設計業務の予実管理|見積工数と実績を比較する
· 編集:KMC株式会社
設計業務の見積工数と実績工数を、設計段階・成果物・変更理由ごとに比較する方法を解説。差異表、更新手順、判断分岐を掲載します。
予実管理は超過を責める表ではない
設計業務の予実管理は、見積時に置いた工数と実際に使った工数を比べ、次の判断に使うための仕組みです。差が出た担当者を評価するだけの表にすると、入力が遅れ、追加対応が通常業務へ混ざり、原因が見えなくなります。
見積時の前提を固定し、実績は事実として記録し、差の理由を分類します。顧客条件の変更、原資料不足、社内手戻り、外注調整など原因が違えば、改善策も違います。
比較する粒度をそろえる
| 軸 | 見積時 | 実績時 |
|---|---|---|
| 設計段階 | 与条件、基本、実施、申請、監理 | 同じ段階で記録 |
| 成果物 | 平面、面積表、説明資料など | 作成・修正・レビューを記録 |
| 担当 | 意匠、構造、設備、管理 | 実際の担当を記録 |
| 変更 | 当初範囲と追加想定 | 変更番号を分離 |
| 期間 | 作業期間と回答待ち | 作業日と待ちを分離 |
見積が「基本設計一式」、実績が「会議、作図、メール」では比較できません。次回から見積時にも成果物と主要作業を分けます。過去の粗い見積を無理に細分化せず、比較可能な上位区分で始めます。
差異表の記入例
| 工程 | 見積工数 | 実績工数 | 差の分類 | 事実メモ | 次回の修正 |
|---|---|---|---|---|---|
| 与条件整理 | 自社値 | 実績値 | 入力不足 | 設備条件の回答が分散 | 質問票へ確認先を追加 |
| 平面検討 | 自社値 | 実績値 | 追加依頼 | 第3案をCHG-07で作成 | 追加番号を見積と分離 |
| 社内レビュー | 自社値 | 実績値 | 手戻り | 面積表の版が不一致 | レビュー前チェック追加 |
| 顧客説明 | 自社値 | 実績値 | 予定内 | 合意した回数で完了 | 変更なし |
架空の標準値や削減率は置きません。自社の見積と実績を入力します。「担当者が遅い」ではなく、確認できる出来事を書きます。原因が複数なら主因と副因を分けます。
週次、段階終了、案件終了で見ること
週次では、残工数と次の成果物を確認します。超過が確定してからではなく、残り作業が見積枠へ収まるかを見ます。段階終了時には、見積と実績の差、追加番号、外注、成果物の完成状態を確認します。案件終了時には、次の見積テンプレートへ戻す改善だけを決めます。
- 見積工数を基準版として固定する。
- 実績を週内に入力する。
- 追加業務を変更番号で分ける。
- 週次で実績と残作業を確認する。
- 段階終了時に差の理由を分類する。
- 案件終了時に見積の作業分解と質問項目を更新する。
判断分岐:差をどう扱うか
- 顧客の追加依頼なら、通常業務の見積精度とは分けて変更管理へ戻す。
- 当初から必要な作業の漏れなら、次回見積の作業分解へ追加する。
- 原資料不足なら、初回ヒアリングと着手条件を見直す。
- 外注成果物の不整合なら、依頼仕様と検収手順を見直す。
- 社内の二重入力なら、正本と受渡し方法を見直す。
- 単に作業期間が延びたなら、工数増と回答待ちを分ける。
- 予定より少なかった場合も、範囲漏れや未完了がないか確認してから好結果と判断する。
完成率ではなく成果物で残作業を読む
「基本設計80%」という数字は担当者ごとに意味が違います。成果物の状態で読みます。
| 成果物 | 状態 | 残作業 |
|---|---|---|
| 平面図 | 社内レビュー済み | 顧客回答反映 |
| 面積表 | 作成済み | 平面最終版と照合 |
| 比較表 | 下書き | 概算条件と選択理由を追記 |
| 説明資料 | 未着手 | 図表確定後に編集 |
残工数は、未着手だけでなく修正、レビュー、提出準備まで含めて見積もります。完成率を掛けて機械的に算出せず、残タスクから積み上げます。
予実会議は3つだけ決める
会議では、差の説明を長く聞くより、次回提出までの残作業、追加協議が必要な事項、再発防止の担当を決めます。表の数字は事前に更新し、会議中に工数を聞き取らない運用にします。
同じ原因が続く場合は個人注意で終えず、見積テンプレート、ヒアリング項目、レビュー順序、ファイル管理に共通原因がないか確認します。設計事務所DXの始め方で対象業務を絞り、入力負担と改善効果を検証します。AIで集計や分類を支援する場合も、AI導入デモの準備に沿って正解データと確認者を定めます。
途中見込みを更新する記入例
基本設計の途中で、実績工数だけを見て「まだ半分残っている」と判断しないよう、残作業を成果物ごとに書きます。
| 成果物 | 現在の状態 | 残作業 | 回答待ち | 見込み更新 |
|---|---|---|---|---|
| 平面図 | 2案を提示済み | 採用案の修正、整合確認 | 席数確定 | 回答後に再見積 |
| 面積表 | 2案分作成済み | 採用案へ更新 | なし | 残作業を積上げ |
| 概算条件表 | 下書き | 設備・外構条件を追記 | 設備要望 | 回答待ちを別表示 |
| 説明資料 | 構成のみ | 図表配置、レビュー | 平面確定 | 未着手工数を追加 |
回答待ち中は工数が発生していなくても、提出日は動きます。工数見込みと日程見込みを別欄で更新し、顧客回答が遅れたことを工数超過の理由にしません。回答後の再確認が必要なら、その作業だけ残工数へ加えます。
変更見積が出た場合の基準版
変更合意後は、当初見積、承認済み変更、最新見込みの3つを並べます。当初見積を消して変更後の数字だけにすると、差が条件変更によるものか見積漏れか分からなくなります。
| 版 | 役割 | 更新可否 |
|---|---|---|
| 当初見積 | 契約時の基準 | 固定 |
| 承認済み変更 | 合意した追加・削除 | 変更番号ごとに固定 |
| 最新見込み | 実績と残作業から算出 | レビューごとに更新 |
追加業務の工数は承認済み変更へ、当初範囲の手戻りは当初見積との差へ残します。どちらも実績である点は同じですが、次の改善先が違います。
比較期間をまたぐ案件の扱い
長期案件では月単位だけで良否を判断せず、設計段階と成果物の完了単位でも確認します。月末時点で工数が少なくても、顧客回答待ちで翌月へ集中する場合があります。逆に、前倒しでレビューした月は一時的に実績が多く見えます。累計と残作業を併記し、単月差だけで結論を出しません。
担当交代があった場合は、引継ぎ工数を独立して記録します。当初見積に引継ぎが含まれていなければ、その理由と発生日を残し、通常の作図効率へ混ぜません。
業務報酬基準との関係
国土交通省の業務報酬基準では、直接人件費や標準業務人・時間数を用いる考え方が示されています。社内の予実管理は、自社が個別案件で実際に使った工数を確認するものです。告示の標準値と自社実績を同じ意味で扱わず、建物類型、業務範囲、追加的な業務など適用条件を確認します。
参考資料に挙げるIPAのCoBRA法は、ソフトウェア開発プロジェクトの工数見積り評価モデルを構築する支援ツールです。過去実績と変動要因を使って見積りを検証する考え方の比較材料にとどめ、建築設計の標準工数や、そのまま適用できる算定方法を示す資料として扱いません。
よくある質問
毎日工数を入力する必要がありますか
記憶が曖昧になる前に入力できる頻度を決めます。週内入力を最低線とし、案件の切替が多い場合は日次が向きます。
見積を途中で上書きしてよいですか
基準版は残します。変更見積は版を分け、当初との差と合意日を記録します。
工数超過した担当者へ理由を書かせますか
担当者の評価ではなく、確認可能な出来事をチームで分類します。個人批判になる表現は原因改善に使えません。
予定より工数が少なければ成功ですか
成果物の不足、レビュー省略、未請求の追加対応がないか確認します。完了条件を満たした上で評価します。
金額の予実も同じ表で管理できますか
工数、外注、直接経費を元データとして持ち、必要な金額表示は自社の管理ルールで別集計します。税務・会計処理は専門家へ確認してください。
参考資料
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