設計事務所のExcelとAI|台帳整理の使い方
· 編集:KMC株式会社
設計事務所の案件・図面・工数台帳をExcelとAIで整理する際に、原本コピー、列定義、式の検算、重複や欠損の確認、反映前レビューを行う手順を解説します。
ExcelとAIは台帳の整形案と式の草案に使う
設計事務所では、案件一覧、図面台帳、工数、見積、問い合わせなどがExcelへ蓄積されます。AIは列の整理、表記統一、式の説明、集計案を作る補助になります。一方、列の意味や単位を誤ると、見た目が整ったまま数値が壊れます。原本を直接上書きせず、コピーで試し、行単位と集計値の両方を検算します。
この記事は特定の台帳の正本ではなく、どのExcelにも共通する試行手順です。案件管理や工数管理の項目は、各業務の記事で別に定義します。
最初に原本を固定する
作業前に、対象ファイルの所有者、更新者、用途を確認します。「最新版.xlsx」が複数ある場合は、AIを使う前に正本を決めます。原本へ日付と版を付け、読み取り専用の保管場所へコピーします。AI加工用は別名にし、元へ戻せる状態を作ります。
| 確認項目 | 記録する内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 原本 | ファイル名、保存先、更新日時 | 比較元を固定する |
| 対象シート | 名前と用途 | 無関係な表を触らない |
| 主キー | 案件番号、図面番号など | 同じ行を識別する |
| 列定義 | 意味、形式、単位、空欄の意味 | 誤変換を防ぐ |
| 数式 | 計算列、参照先、保護範囲 | 値への置換を防ぐ |
| 出力先 | 試行コピー、確認済み版 | 原本上書きを避ける |
非表示行、フィルター、結合セル、名前付き範囲、外部リンクも確認します。画面に見える行だけを処理すると、非表示の履歴や集計対象が取り残されます。
列の意味をデータ辞書にする
AIへ表を渡す前に、列ごとの許容値を短い表にします。「日付」は受付日、提出日、更新日のどれか、「金額」は税を含むか、「面積」は平方メートルか坪かを明記します。
| 列 | 意味 | 形式 | 空欄の意味 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 案件番号 | 案件を一意に識別 | 文字列 | 許可しない | S001 |
| 受付日 | 最初に相談を受けた日 | 日付 | 未登録 | 2026/10/01 |
| 担当 | 現在の主担当 | 選択値 | 未割当 | 担当A |
| 延床面積 | 確認済みの計画面積 | 数値、平方メートル | 未確認 | 320.5 |
| 状態 | 案件の現在段階 | 選択値 | 要確認 | 初回相談 |
郵便番号や図面番号は数値に見えても文字列です。先頭のゼロを落とさないよう形式を指定します。空欄、ゼロ、「なし」、「未確認」を同じ意味にしません。
AIへ頼む作業を一つに絞る
「このExcelをきれいにして」では、列削除、値の補完、書式変更が同時に起き、検証できません。最初は、表記揺れ候補の抽出、重複候補の一覧、式の草案など一作業に限定します。
匿名化したプロンプト例は次の通りです。
次の台帳コピーについて、担当列の表記揺れ候補だけを一覧にしてください。元セルは変更せず、行番号、現在値、統一候補、判断理由を別表へ出してください。空欄を補わず、似た氏名を同一人物と断定しないでください。案件番号と担当以外の列は参照しないでください。
式を作る場合は、目的、対象列、空欄、エラー時の表示を指定します。
受付日がB列、初回返信日がC列です。両方が日付の行だけ経過日数をD列へ出し、どちらかが空欄なら「未確認」と表示するExcel式の候補と、式の意味を説明してください。原表へ挿入せず、検証例を三つ示してください。
式は代表行と端の条件で検算する
MicrosoftはCopilot in Excelで式や集計の候補を作れると案内する一方、AI生成内容を確認するよう明記しています。Google SheetsのAI機能も、利用可能なプランや機能制限があります。どの製品でも、生成された式をそのまま全列へ反映せず、次の条件で試します。
- 通常の値が入る行
- 空欄を含む行
- ゼロ、負数、日付境界を含む行
- 文字列が混ざる行
- 最初と最後のデータ行
- フィルターや追加行の後
式の結果だけでなく、参照範囲がずれていないか、絶対参照と相対参照が意図どおりかを確認します。集計表は、手計算できる小さなサンプルと一致させます。
経過日数の式を検算する例
受付日がB列、初回返信日がC列なら、草案は =IF(OR(B2="",C2=""),"未確認",IF(AND(ISNUMBER(B2),ISNUMBER(C2)),C2-B2,"日付要確認")) のようになります。これはExcelの日付シリアル値を数値として確認する例です。同日の組合せが0、翌日の組合せが1、どちらかが空欄なら「未確認」、文字列なら「日付要確認」になるかを検算します。次に、C列がB列より前の日付なら負数になるため、入力誤りとして検出する列が別に必要かを決めます。時刻を含む値、1900または1904日付システム、文字列化した日付は別途検証します。この式が数えるのは暦日です。土日を除く営業日が必要なら同じ式を流用せず、休日表と業務上の定義を用意します。式を下まで複製した後は、先頭、中間、最終行で参照が各行のB列とC列を向いているか確かめ、既存の合計やフィルターに影響していないことも確認します。
台帳整理の五段階
1. 現状を測る
行数、列数、主キー重複数、必須列の空欄数、数式セル数を記録します。処理後に同じ指標を比べます。
2. 候補だけを別シートへ出す
表記揺れ、重複、欠損、形式不一致を「修正候補」として出し、元表を変えません。理由と元セル位置を付けます。
3. 業務担当が判定する
同じ案件名でも別案件の場合があり、同じ図面番号でも版が違います。主キーと業務条件で統合可否を決めます。
4. 少数行へ反映する
代表的な10行など管理できる範囲へ適用し、差分を確認します。数式、書式、コメント、リンクが保たれるか見ます。
5. 全体反映と照合を行う
承認済みの変換表を使い、処理前後の件数、合計、空欄、重複を比較します。差分ファイルと確認者を残します。
自然言語の分類は原文を残す
相談内容や備考を「新築」「改修」「未定」へ分類する場合、AI分類列を追加し、原文列は保持します。分類理由と確度を付け、低確度や複数候補は人が確認します。自由記述を上書きすると、後で分類の妥当性を確認できません。
個人情報や顧客機密を外部サービスへ入力してよいかも確認します。氏名を案件番号へ置き換えても、住所、物件名、備考から特定できることがあります。
失敗しやすい処理と戻し方
日付が文字列へ変わった場合は、表示ではなくセル型を確認し、原本コピーからやり直します。数値の桁や単位が変わった場合は、変換前後の最小、最大、合計を比較します。重複削除で行数が大きく減った場合は反映を止め、主キーと版の扱いを見直します。
式が値へ置き換わった、書式や入力規則が消えた、外部リンクが切れた場合は、部分修正を重ねず原本コピーへ戻ります。どの操作で壊れたかを一作業ずつ再現します。
よくある質問
AIに台帳全体の修正を任せてもよいですか
最初は候補抽出だけにします。承認済み変換表、差分確認、バックアップ、復元手順が整ってから反映範囲を広げます。
数式が正しそうなら検算は不要ですか
必要です。空欄、文字列、追加行、端数、参照範囲で結果が変わります。代表行と集計値を別の方法で確かめます。
重複案件はAIで一つにできますか
候補は出せますが、案件番号、顧客、時期、版を人が確認します。名称が同じでも別計画、名称が違っても同一案件の場合があります。
ExcelをGoogle Sheetsへ変換しても同じですか
数式、マクロ、書式、外部リンク、権限の挙動が異なる場合があります。コピーで変換し、必要機能が保たれるか確認します。
AI加工後のファイルを正本にする条件は何ですか
差分、件数、数式、集計、入力規則を確認し、業務責任者が承認した後です。確認前のファイルは名称と保存場所で区別します。