設計事務所の受注判断|体制と条件を確認する表
· 編集:KMC株式会社
設計事務所が相談を受ける前に、業務範囲、工程、体制、意思決定、情報条件を確認し、受注・保留・見送りを判断する方法を解説します。
相談者との関係や案件の魅力だけで受注を決めると、開始後に担当不足、業務範囲の食い違い、意思決定の遅れが表面化します。反対に、条件が少し不明なだけですべて見送れば、確認によって進められる案件まで失います。
設計事務所の受注判断は、直感を排除する作業ではありません。担当者が感じた懸念を、確認できる条件へ言い換え、受注、条件付き受注、追加確認、見送りを組織として選ぶ作業です。
判断する前に案件の入口をそろえる
相談内容が口頭、メール、紹介者経由で別々に届いても、判断票には同じ項目を入れます。設計事務所の問い合わせ管理で受付IDを付け、次を一枚に集めます。
- 依頼者、契約主体、主な連絡窓口
- 建物用途、計画地、規模、現在の段階
- 希望する業務と成果物
- 希望時期と動かせない節目
- 予算に関する確認済み情報
- 発注・選定の方法と判断時期
- 所有者、利用者、行政、施工者など関係者
- 受領資料、不足資料、情報の確認元
空欄を推測で埋めません。「未確認」と書き、誰がいつまでに確かめるかを置きます。相談者の希望と、行政資料や契約資料で確認した事実も分けます。
六つの観点で判断する
| 観点 | 確認する問い | 不足時の扱い |
|---|---|---|
| 業務適合 | 自社の経験・資格・対応領域に合うか | 協力者または見送りを検討 |
| 範囲 | 含む業務、含まない業務、成果物が分かるか | 範囲案を提示して再確認 |
| 工程 | 調査、協議、設計、発注の節目が成り立つか | 条件付き工程を作る |
| 体制 | 主担当、確認者、代替者、外部協力を置けるか | 開始時期や体制を調整 |
| 意思決定 | 誰が何をいつ決めるか分かるか | 決裁者と確認機会を設定 |
| 情報条件 | 敷地、既存図、要求、制約を確認できるか | 調査業務または保留 |
単純な合計点だけで決めないことが重要です。たとえば担当者が空いていても、契約主体が不明なら開始できません。各観点に「必須」「調整可能」「参考」を付け、必須条件が欠けた場合の扱いを決めます。
稼働は人数ではなく節目で見る
「来月は一人空く」という情報だけでは判断できません。既存案件の提出、行政協議、施主確認、現場対応が重なる日を見て、新規案件の調査、打合せ、社内確認を置けるか確認します。
設計事務所の稼働管理で、担当者ごとの作業時間を細かく埋める前に、外せない節目と確認者の競合を表示します。主担当だけでなく、図面確認者や責任者の時間を含めます。外注を前提にする場合は、候補者の予定、依頼範囲、確認責任を確認済みかどうかも記録します。
判断結果は四種類にする
| 結果 | 使う状態 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 受注へ進む | 必須条件が確認でき体制がある | 提案・契約条件を整理 |
| 条件付きで進む | 調整条件が相手と共有できる | 条件、期限、未成立時の扱いを文書化 |
| 追加確認 | 判断に必要な事実が不足 | 質問担当と回答期限を設定 |
| 見送り | 必須条件が合わず調整できない | 理由と連絡日を記録 |
「保留」は期限のない箱にしません。追加確認に置き換え、質問、相手、期限、期限を過ぎたときの扱いを決めます。条件付きで進む場合も「何とかする」ではなく、開始日、成果物、協議回数など具体的な条件を記します。
受注判断会議の進め方
案件が大きい場合や複数担当に影響する場合は、相談担当だけで決めず、案件責任者、予定する主担当、確認者を集めます。順序は次の通りです。
- 依頼者の希望と確認済み事実を読む
- 未確認事項を列挙する
- 六観点ごとに必須条件を確認する
- 既存案件との節目競合を見る
- 最悪の場合に何が止まるかを考える
- 判断結果、条件、担当、期限を記録する
売上見込みだけを先に示すと、体制上の懸念を発言しにくくなります。最初に事実と未確認を共有し、担当候補が実行可能性を説明できる時間を取ります。
判断票の記入例
受付ID I-032。既存事務所の改修設計相談。契約主体は法人A、窓口は総務B様。11月現況調査、翌年4月利用開始を希望。現況図あり、設備改修履歴は未受領。業務範囲は設計・監理を希望しているが、設備調査と申請の範囲は未確認。主担当候補Cは11月の調査対応可、確認者Dは12月第2週に既存案件の提出と競合。結果は追加確認。B様が10月18日までに設備資料と意思決定者を確認、Cが10月20日までに工程案、責任者Eが10月21日に再判断。資料がない場合は現況調査の別業務化を提案する。
この例では、案件を断定的に「可能」とせず、判断を変える不足条件と再判断日が分かります。
条件変更時は再判断する
受注判断は契約前の一回で終わりません。用途、規模、業務範囲、開始時期、意思決定者など、判断の前提が変わったら再確認します。変更を担当者間の会話だけで吸収すると、当初の判断理由が失われます。
変更記録には、変更前、変更後、依頼元、判明日、工程・体制・成果物への影響、再判断者を残します。影響がないと判断した場合も、その理由を一行で記録します。
見送り基準も事前に共有する
受注したい気持ちが強い場面ほど、見送り基準が必要です。法令や資格に関する確認ができない、契約主体が確定しない、必要な確認工程を認めてもらえない、担当と確認者を置けないなど、自社として開始できない状態を先に列挙します。個別の相手を評価する表現ではなく、案件条件として書きます。
見送り基準に当てはまっても、条件を変えれば進められる場合があります。「希望日を一か月後へ変更できれば体制を置ける」「既存建物調査を先行すれば設計範囲を提案できる」のように、調整可能な条件を分けます。相手が条件を受け入れない場合は、やり取りを長引かせず終了日を記録します。
四半期ごとなど決めた時点に、見送り案件と受注後に問題が起きた案件を並べて基準を見直します。受注後に繰り返し発生する問題が入口で確認できたなら判断票へ追加します。逆に、使われない質問や担当者によって解釈が違う表現は削るか定義します。基準変更日と適用開始日を残し、過去案件を新基準で断定的に再評価しません。
AIを補助に使う場合
AIに相談文から不足項目を抽出させたり、判断会議の質問候補を作らせたりする場合は、個人情報、計画地、予算、図面などの入力条件を確認します。設計事務所のDXは何から始める?のように、まず匿名化した過去案件や架空データで流れを試します。
AIが出した点数で自動的に受注可否を決めません。入力されていない関係性や専門資格、契約条件は評価できないためです。候補を人が判断票へ転記し、確認元を付けます。
失敗を防ぐ具体策
| 失敗 | 防止策 |
|---|---|
| 紹介案件だから即決する | すべて同じ入口項目で確認 |
| 合計点だけで受注を決める | 必須条件を別に設定 |
| 主担当の空きだけを見る | 確認者と既存案件の節目も確認 |
| 保留案件が残り続ける | 質問、担当、再判断日を置く |
| 外注できる前提で進める | 候補、範囲、確認責任を事前確認 |
| 条件変更を口頭で吸収する | 前提変更時に再判断を記録 |
よくある質問
判断表は点数化した方がよいですか
比較の補助にはなりますが、資格、契約主体、体制などの必須条件を合計点で相殺しない設計が必要です。
小規模案件も会議にかけますか
影響に応じて承認者を減らせます。ただし、受付項目と判断結果は残し、担当者だけの記憶にしません。
予算が未定なら見送りますか
未定の意味を確認します。検討の前提もないのか、開示時期が決まっているのかで、追加確認や業務範囲の提案が変わります。
忙しい時期は一律で断るべきですか
開始時期、節目、協力体制を確認して判断します。無理な受注を避けつつ、時期調整が可能かを相談します。
見送り理由は相談者へすべて伝えますか
伝えられる事実と調整不能な条件を簡潔に説明します。内部評価や推測をそのまま相手へ示しません。
一次資料で確認できること
- AIA「Finding Agency to Create Equitable Change Through Design: Project Choice & Team Creation」:公平性と地域参加の観点から、案件選択、チーム構成、社内のgo/no-go検討例を示しています。
- AIA「The value of a comprehensive owner-architect contract」:業務、責任、報酬、工程などを明確にした合意の重要性を説明しています。
上記は案件選択と業務条件を考える一次資料です。本記事の六観点、四つの判断結果、判断会議の順序は、設計事務所の受注前確認を運用するための実務提案です。
AIA資料は米国の職能団体による参考資料です。国内案件では日本の法令、建築士業務の条件、契約書、発注条件を優先し、相談項目や確認手順の参考として利用してください。
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