設計事務所の業務フロー|手戻り箇所の見つけ方
· 編集:KMC株式会社
設計事務所の業務フローを、入力、作業、判断、成果物、待ち時間で可視化する方法を解説します。理想手順ではなく実際の案件を追い、手戻りと滞留を改善する実務手順です。
業務フローは理想の手順ではなく実際の受渡しを描く
社内マニュアルには「ヒアリング、設計、確認、提出」と書かれていても、実際には不足資料を探し、別の担当へ聞き直し、古い図面を差し替え、所長の確認を待つことがあります。理想の箱だけを並べると、手戻りと滞留の原因は見えません。
業務フローの目的は、誰が、何を入力に、どの判断を行い、何を次へ渡すかを可視化することです。ソフトを導入する前に現状を描き、作業時間と待ち時間、正規の手順と現場の迂回を分けます。
対象範囲を一文で決める
「設計業務全体」は広すぎます。開始と終了が観察できる単位に絞ります。
| 曖昧な対象 | 絞った対象 |
|---|---|
| 初回相談 | 問い合わせ受領から案件要約を設計担当へ渡すまで |
| 基本計画 | ヒアリング確定から比較案を顧客へ説明するまで |
| 概算 | 図面版を固定してから前提付き概算を承認するまで |
| 図面修正 | 変更依頼受領から関係図書を改訂・共有するまで |
開始時の入力と終了時の成果物を定義すると、どこから観察し、何を改善するかが決まります。隣接工程の問題が見つかった場合は記録し、今回の対象と混ぜません。
フローの一箱に入れる六項目
| 項目 | 質問 | 記入例 |
|---|---|---|
| 実行者 | 誰が行うか | 窓口担当B |
| 入力 | 何を受け取るか | 問い合わせメール、添付図面 |
| 処理 | 何をするか | 相談目的と不足資料を分類 |
| 判断 | 何を選ぶか | 面談前に追加質問が必要か |
| 出力 | 何を次へ渡すか | 案件基本票、資料受領表 |
| 完了条件 | いつ渡せるか | 案件ID、目的、担当、次回期限が埋まる |
箱同士の矢印には「渡す情報」を書きます。単に窓口から設計へ矢印を引くのではなく、案件基本票、原資料リンク、未確認事項表を渡すと明記します。
現状フローを作る手順
1. 完了済み案件を一件選ぶ
記憶に頼らず、メール、ファイル更新履歴、会議記録が追える案件を選びます。問題が大きかった案件だけでなく、比較的順調な案件も見ると、違いを確認できます。
2. 起きた順に事実を並べる
理想の役割ではなく、実際に誰がメールを受け、どのファイルを作り、誰の回答を待ったかを書きます。「通常はこうする」という説明と実際の記録が違う場合は両方残します。
3. 作業と判断を分ける
「資料を確認する」の中に、ファイルを開く作業と、受任できるか判断する仕事が混ざっています。判断には基準、決定者、根拠が必要です。判断が特定の人に集中している箇所は別記します。
4. 時間と期間を記録する
実作業に要した時間と、開始から次へ渡るまでの期間を分けます。30分の確認が回答待ちで数日止まる場合、作業の自動化だけでは納期は縮まりません。
5. 差戻しと迂回を赤で足す
図面版違いで作り直した、担当者が不在で別の人を探した、メール添付を再ダウンロードしたなど、通常フローから戻る矢印を描きます。個人を責めるのではなく、入力、判断基準、保存先、役割のどこが不明だったかを記録します。
初回相談の記入例
| 順序 | 実行者 | 入力 | 処理・判断 | 出力 | 待ち・戻り |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 窓口 | 問い合わせメール | 判断期限と相談目的を確認 | 案件仮登録 | 用途しか書かれていない |
| 2 | 窓口 | 添付図面 | 表題欄、日付、ページを確認 | 資料受領表 | 測量図を追加依頼 |
| 3 | 案件責任者 | 案件仮登録 | 相談を受ける範囲を判断 | 面談担当と質問票 | 責任者の確認待ち |
| 4 | 面談担当 | 質問票、原資料 | 事実・希望・宿題を分類 | 案件要約 | 予算範囲を再確認 |
| 5 | 設計担当 | 案件要約 | 次回成果物を決める | 初期検討タスク | 古い添付を参照し差戻し |
この表から、測量図の不足そのものより、資料受領表が設計担当へ渡っていないこと、正本リンクがないことが手戻り原因だと分かる場合があります。
手戻りを五つに分類する
| 分類 | 見つける質問 | 対策の方向 |
|---|---|---|
| 入力不足 | 着手前に必要な情報がそろったか | 受付項目、受領確認を直す |
| 版・保存先 | 正本を一意に開けたか | 命名、リンク、発行状態を整える |
| 判断基準 | 誰が何を基準に決めるか分かったか | 基準とエスカレーションを明示 |
| 受渡し | 次担当が使える成果物だったか | 完了条件と出力形式を決める |
| 変更伝達 | 影響する担当へ同時に届いたか | 変更表と通知先を定義 |
同じ差戻しでも原因が違います。「担当者の注意不足」で閉じず、前工程で予防できるかを見ます。専門判断が必要な例外まで一律化せず、誰へ相談するかを標準化します。
滞留を見つける三つの印
待ち先が書かれていない
「確認中」のまま、顧客、行政、協力者、社内責任者の誰を待っているか分からない状態です。依頼日、回答希望日、再確認日を置きます。
同じ情報を複数回入力している
顧客名、所在地、面積、図面版などをメール、案件票、見積書、提案資料へ転記している箇所です。正本を決め、参照または安全な連携で再入力を減らします。
一人の承認箱に複数ルートが集まる
所長や専門者へ判断が集中し、前提資料が不ぞろいなまま届く状態です。承認前の確認項目、予約日、代理できる準備作業を決めます。
改善案は原因と対にする
| 観察した事実 | 原因仮説 | 小さな変更 | 確認指標 |
|---|---|---|---|
| 設計担当が添付を探し直した | 正本リンクが案件要約にない | 案件要約へ資料一覧リンクを必須化 | 探索回数 |
| 概算担当へ図面が二度届いた | 発行状態が分からない | 確認中・発行済みを区別 | 版違い差戻し |
| 所長確認で不足資料が判明 | 承認前条件がない | 提出前チェックを追加 | 承認差戻し |
いきなりシステムを入れず、書式や受渡しを一か所変え、同じ種類の案件で比較します。設計事務所DXの最初の進め方にあるように、作業時間だけでなく、待ち時間、手戻り、再入力、確認漏れを対で見ます。
将来フローを描くときの注意
現状の箱をそのままデジタル化すると、不要な転記や承認も残ります。将来フローでは、処理をなくせるか、前へ移せるか、まとめられるか、自動化できるかの順で検討します。自動化する場合も、例外、停止条件、確認者、元資料へ戻る経路を残します。
AIで議事録を分類するなら、入力可能な情報と確認者を決めます。図面や顧客資料の扱いは設計事務所のAI情報管理を確認し、推測で案件条件を補う処理は採用しません。
フローを運用へ戻す
作成した図を共有フォルダに置くだけでは改善しません。変更した欄、担当、開始日、試す案件、確認日を決めます。現場が旧手順へ戻った場合は、守らない人を探すより、入力負担、例外、権限、成果物の使い道を確認します。
月次では、最も多い差戻し、最も長い待ち、最も多い再入力を一つずつ確認します。改善後に別の場所へ負担が移っていないかも見ます。フローの更新日と変更理由を記録し、古い版を手順として使わないようにします。
失敗を防ぐ具体策
| 失敗 | 防止策 |
|---|---|
| 理想の手順だけを描く | 完了案件の記録から事実を並べる |
| 箱の名前だけを書く | 入力、出力、完了条件を入れる |
| 作業時間だけ測る | 経過期間と待ち先を分ける |
| 個人のミスで閉じる | 前工程の入力・受渡しを調べる |
| 現状をそのまま自動化する | 削除、前倒し、統合を先に検討 |
| 全業務を一度に変える | 一つの開始・終了範囲で試す |
よくある質問
フローチャート専用ソフトは必要ですか
最初は付箋、表計算、ホワイトボードでも作れます。図の美しさより、入力、判断、出力、待ち、戻りを関係者が修正できることが重要です。
何件の案件を調べればよいですか
一件で仮説を作り、順調な案件と手戻りがあった案件を追加して共通点を確認します。件数より、証拠となるメール・版・日時を追えることを優先します。
例外が多く標準化できません
結論ではなく、例外を判定する質問、相談先、記録方法を標準化できます。専門判断そのものを一律の手順へ押し込みません。
作業時間を聞くと担当者が警戒しませんか
目的、閲覧範囲、利用方法を説明し、人事評価ではなく滞留と手戻りの改善に使います。記録負担も測り、必要以上に細かくしません。
改善効果はいつ判断しますか
同種案件で変更前後を比べられる期間を決めます。時間だけでなく、差戻し、探索、再入力、確認漏れが増えていないかを確認します。
一次資料で確認できること
- デジタル庁「標準ガイドライン実践ガイドブック」:業務フローの可視化、処理時間と経過期間の区別、滞留箇所の把握を説明しています。
- 国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」:建築生産を段階と担い手で整理し、情報共有とプロセス間の受渡しを扱っています。
上記は業務分析と建築プロセスを捉える一次資料です。本記事の六項目、手戻り五分類、改善表は、設計事務所の日常業務を観察するための実務提案です。法定手続、契約上の役割、専門判断は個別条件に従ってください。
関連記事
この業務でAIを試すには
業務の条件と確認方法を整えたら、関連するAI活用の手順を確認できます。
設計事務所のAI試行|小さな業務で検証する →