設計事務所の工程管理|設計段階と締切の組み方
· 編集:KMC株式会社
設計事務所の工程管理を、成果物、承認、外部回答、設計段階に分けて組む方法を解説します。期限から逆算し、待ち時間と再確認日を含めた工程表の作り方です。
設計工程は作業日ではなく成果物から組む
設計工程を「基本設計を進める」「申請準備をする」とだけ書くと、いつ終わったと判断するかが分かりません。図面作成が終わっても、構造・設備との調整、発注者の承認、行政や協力者からの回答が残れば、次の段階へ進めないからです。
工程管理では、各段階の終点を成果物と判断で定義します。「基本設計完了」なら、必要図書をそろえるだけでなく、発注者が何を承認し、未決事項をどこへ引き継ぐかまで置きます。担当者の忙しさを色で表す前に、受渡しの条件をそろえることが必要です。
一枚の工程表に置く七つの欄
| 欄 | 記録する内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 節目 | 相手の判断または成果物の受渡し | 基本計画案の承認 |
| 成果物 | その日に確認する一式 | 配置図、面積表、概算前提表 |
| 完了条件 | 何を満たせば次へ進めるか | 優先案と追加調査を合意 |
| 責任者 | 節目を成立させる人 | 案件責任者A |
| 前提入力 | 着手前に必要な資料・判断 | 測量図、必要台数の回答 |
| 外部待ち | 顧客、行政、協力者の回答 | 設備要求の回答待ち |
| 予備日 | 遅れを吸収または再判断する日 | 回答未着なら案の範囲を再設定 |
単に開始日と終了日を並べず、前提入力と外部待ちを見えるようにします。工程表は未来の約束であると同時に、何が欠けると期限を動かすかを説明する資料です。
最終期限から逆算する手順
1. 期限の種類を確認する
「年度内」「早めに」ではなく、誰が何を判断する日かを聞きます。土地の申込、役員会、金融機関への提出、工事着手など、動かせない日と希望日を分けます。顧客が示した日付を法令上の期限や施工可能日と同一視せず、個別条件は関係者へ確認します。
2. 最終成果物を列挙する
提出書類をファイル名だけでなく用途で書きます。「図面一式」ではなく、「発注者が案を選ぶための平面比較」「施工者が見積条件を確認するための図書」のようにします。成果物の利用者が違えば、必要な確認も変わります。
3. 社内承認日を提出日から分ける
顧客提出の前日に全資料が集まる工程では、差戻しを吸収できません。設計、構造、設備、概算の取りまとめ日、案件責任者の確認日、送付版の固定日を分けます。承認後の修正は、どの資料を再確認するか決めます。
4. 外部回答の依頼日と回答希望日を置く
「設備担当確認」の一本ではなく、依頼を出す日、質問内容、回答希望日、未回答時の確認日を置きます。外部の都合で確約できない場合は、回答が来ないときに提出範囲をどう変えるかも決めます。
5. 作業を割り当てる
節目までに必要な作業を分解し、担当と依存関係を付けます。細かな日々の作業は設計事務所のタスク管理へ渡し、工程表では成果物の受渡しを追います。
設計段階ごとの完了条件を作る
段階名は契約と自社の業務範囲に合わせます。次は運用を考えるための例であり、すべての案件に共通する法定区分ではありません。
| 段階 | 成果物の例 | 完了条件の例 | 次段階へ残すもの |
|---|---|---|---|
| 相談・企画 | 案件要約、資料一覧 | 判断目的と不足資料を共有 | 調査担当と期限 |
| 基本計画 | 配置・面積比較 | 優先案と検討継続を合意 | 未確認の敷地条件 |
| 基本設計 | 主要図、仕様方針 | 主要要件と予算方針を確認 | 詳細化する論点 |
| 実施設計 | 設計図書 | 分野間の整合と発行範囲を確認 | 質疑・変更管理 |
| 見積・発注 | 見積用図書、質疑回答 | 比較条件と採用判断を記録 | 契約後の確認事項 |
| 工事監理 | 記録、確認資料 | 契約業務に沿い必要な確認を完了 | 引渡し資料 |
国土交通省のBIM標準ワークフローも、建築生産を業務区分で捉え、各ステージの業務内容、担い手、情報の受渡しを整理しています。自社工程では、BIMを使うかにかかわらず、段階ごとの入力と成果物を明記すると引継ぎやすくなります。
外部回答待ちは独立した行にする
工程遅れの原因が設計作業だけとは限りません。測量図の受領、設備要求、行政への照会、協力事務所の検討、発注者の社内承認など、回答待ちを作業行の注記に隠さないことが重要です。
| 待ち事項 | 依頼日 | 回答希望日 | 影響する成果物 | 未着時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 必要席数の確定 | 10月13日 | 10月16日 | 平面比較、面積表 | 現状人数と将来人数を分けて仮案 |
| 既存設備資料 | 10月13日 | 10月20日 | 設備方針、概算範囲 | 設備費は未反映と明記 |
| 構造担当の一次回答 | 10月18日 | 10月23日 | 断面方針 | 所長確認日を一日移すか判断 |
仮案で進める場合は、仮定を成果物へ明記します。「回答待ちだが間に合うだろう」と扱わず、回答が変わったときの再作業範囲を先に示します。
工程変更の記録例
変更前:10月25日に基本計画案を社内確認。変更理由:測量図の受領が10月18日から10月23日へ変更。影響:配置図と外構条件。対応:面積比較は予定どおり作成し、配置図の社内確認を10月29日へ変更。顧客提案日は再調整し、概算には敷地工事を未確認として記載。決定者:案件責任者A。顧客共有:10月17日。
日付だけを書き換えると、遅れの原因と判断が消えます。変更日、理由、影響、採った対応、決定者、共有先を残します。元工程は版として保存し、過去の約束を追えるようにします。
週次で見るのは遅延だけではない
工程会議では、赤くなった期限だけでなく、次の一週間で成立させる節目を見ます。
- 次の節目の成果物と完了条件は明確か。
- 着手に必要な入力はそろっているか。
- 外部回答に再確認日があるか。
- 同じ担当へ承認が集中していないか。
- 変更を顧客と関係者へ共有したか。
案件横断の現在地は設計事務所の案件管理で追い、詳細工程は案件ごとに管理します。工程の見直しを含むDXの始め方は設計事務所DXの進め方も参考になります。
失敗を防ぐ具体策
| 失敗 | 原因 | 具体策 |
|---|---|---|
| すべてを同じ粒度で書く | 節目と日常作業が混在 | 工程は成果物、日常作業はタスクへ分ける |
| 顧客提出日しかない | 社内確認の余白がない | 取りまとめ、承認、送付版固定を分ける |
| 外部待ちを担当者の予定に入れる | 待ちが見えない | 依頼日、回答希望日、再確認日を独立表示 |
| 日付だけ更新する | 変更理由が消える | 影響と決定者を履歴へ記録 |
| 工程表を作成者だけが更新する | 現場の実態とずれる | 節目の責任者が状態を確認する |
よくある質問
工程表は何日単位で作ればよいですか
案件の期間と判断頻度によります。顧客・外部との節目は日付で置き、長期の設計段階は週単位で見通しを示し、直近だけ詳細化すると更新しやすくなります。
予定工数を工程表へ書くべきですか
節目の実現性を検討する参考にはなりますが、実績時間の記録とは分けます。時間の集計は設計事務所の工数管理で扱います。
顧客の回答が遅い場合はどう管理しますか
相手を責める表現ではなく、依頼内容、回答希望日、影響する成果物、自社の再確認日を記録します。必要なら提出範囲と日程を再合意します。
小さな案件でも予備日は必要ですか
作業量が小さくても、承認や外部回答があるなら余白は必要です。長い予備期間を一律に置くのではなく、遅れたときに何を調整するか決めます。
工程が何度も変わるのは管理失敗ですか
変更自体では判断できません。未確認条件が判明して適切に更新することもあります。理由、影響、判断、共有が残らない変更を問題として扱います。
一次資料で確認できること
- 国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」:業務区分、各業務の担い手、情報共有、プロセス間の受渡しを整理しています。
- AIA「Defining the architect's basic services」:設計から入札・施工段階までの代表的なサービスと、各段階の成果物の考え方を示しています。
上記資料は段階と成果物を考える根拠です。本記事の七項目、予備日の置き方、外部回答待ち表は、設計事務所が日常工程を更新するための実務提案です。契約上の業務範囲、法令・申請日程、関係者との合意を優先して調整してください。
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