設計事務所の請求前チェック|合意と成果物を照合
· 編集:KMC株式会社
設計事務所が請求前に契約、業務範囲、成果物、変更合意、請求時期を照合する手順を解説。税務処理ではなく案件記録の確認に絞ります。
請求前チェックは金額入力の前に行う
設計業務の請求で確認したいのは、請求書の書式だけではありません。契約した業務、実際に完了した成果物、途中で合意した変更、請求できる時点が一致しているかです。案件担当者が「終わった」と考えても、顧客への提出や確認が残っていれば、請求条件を満たしていないことがあります。
本記事は請求に関する税務・会計の判断を解説するものではありません。設計事務所の業務記録を、契約条件と照合するための運用を扱います。税区分、適格請求書、売上計上などは、最新制度と自社の税理士・会計担当者へ確認してください。
5種類の資料を一か所に集める
請求前に、次の資料を案件番号でそろえます。
| 資料 | 見る箇所 | 照合する相手 |
|---|---|---|
| 契約書・見積書 | 業務名、金額、請求時期 | 請求予定表 |
| 業務範囲表 | 含む業務、除外、成果物 | 提出記録 |
| 変更合意 | 追加・削除・金額・期間 | 最新版の契約条件 |
| 成果物一覧 | ファイル名、版、提出日 | 送付メール、受領記録 |
| 請求履歴 | 請求済み区分、日付、金額 | 今回の請求対象 |
共有フォルダに成果物があるだけでは、提出済みとは限りません。送付した版、送付日、宛先、差し替えの有無を確認します。顧客からの承認が請求条件なら、承認記録も必要です。担当者の記憶で補わず、見つからない記録は「未確認」として止めます。
請求確認表の記入例
| 確認項目 | 記入例 | 状態 |
|---|---|---|
| 請求区分 | 基本設計完了時 | 確認済み |
| 契約上の成果物 | 配置図、平面図、立面図、面積表 | 確認済み |
| 提出版 | 2026-10-08提出 Rev.03 | 確認済み |
| 顧客確認 | 10月10日メール受領 | 確認済み |
| 追加業務 | 追加パース2点 | 変更合意を照合中 |
| 未完了 | 行政照会への回答反映 | 次回区分 |
| 前回請求 | 着手時分を請求済み | 重複なし |
状態は「確認済み」「不足」「対象外」の3つにそろえます。空欄は未確認なのか該当なしなのか分かりません。追加パースのように作成済みでも、金額や請求時期の合意が見つからなければ、請求書へ勝手に足さず担当者へ戻します。
契約から請求までを順方向で追う
- 契約書と最終見積書から請求区分を抜き出す。
- 区分ごとの成果物と完了条件を業務範囲表で確認する。
- 提出記録から対象成果物の版と日付を確認する。
- 変更合意を時系列で確認し、追加・削除を反映する。
- 過去の請求履歴と照合し、重複と漏れを確認する。
- 案件担当者と請求担当者が別々に確認して確定する。
逆方向の確認も有効です。請求明細の各行から、契約書、変更記録、成果物へ戻れるかを見ます。「設計業務一式」という行から根拠へ戻れない場合は、顧客が照合できる名称へ直します。契約と同じ業務名を使い、社内略称をそのまま載せません。
追加・減額・保留を分ける
変更があった案件では、追加だけに注意すると減額や次回繰越を見落とします。
| 区分 | 確認すること | 処理の考え方 |
|---|---|---|
| 追加 | 依頼内容、合意日、成果物、金額 | 合意記録と請求時期を照合 |
| 削除 | 実施しなくなった業務 | 変更後の契約条件を反映 |
| 代替 | 成果物を別形式へ変更 | 旧成果物との二重計上を防ぐ |
| 保留 | 未回答や条件不足で停止 | 完了扱いにしない |
| 先行対応 | 合意前に着手した作業 | 責任者へ戻し協議記録を確認 |
国土交通省の建築設計業務等変更ガイドライン(案)は、国の建築設計・工事監理業務の委託契約を対象とする資料です。変更条件の確認、変更内容の通知、必要に応じた期間・委託料変更という流れは、記録項目を設計する参考になります。民間契約へそのまま適用せず、自社の契約条項を優先して照合します。
判断分岐:そのまま請求へ進めるか
- 契約上の請求時点に達し、成果物と提出記録がそろうなら、請求明細の照合へ進む。
- 成果物は完成したが顧客確認が条件なら、確認を受けるまで保留する。
- 追加業務は完了したが合意記録がないなら、請求へ載せず案件責任者へ戻す。
- 契約変更で業務が削除されたなら、旧見積を使わず最新版から再確認する。
- 一部だけ完了した場合は、部分請求の条件が契約にあるか確認する。
- 顧客名、支払先、宛名が変わった場合は、連絡だけで処理せず契約担当へ確認する。
月末に慌てないための更新点
請求確認表は請求直前だけ作らず、契約時に行を作ります。成果物を提出した日に版と日付を更新し、追加依頼を受けた日に変更番号を付けます。請求担当者は月末に案件を聞き回る必要がなくなり、案件担当者も記憶を掘り起こさずに済みます。
終了後は、差戻し理由を記録します。「成果物未提出」「変更合意なし」「前回請求と重複」「請求区分の名称不一致」のように分類すると、契約書や見積書の改善点が見えます。架空の削減率を置かず、実際の差戻し件数と原因を確認します。
分割請求の照合例
基本設計と実施設計を分けて請求する案件では、成果物の名称が似ていても対象版が違います。基本設計完了時に平面図を提出し、実施設計完了時にも平面詳細図を提出する場合、「平面図提出済み」だけでは判定できません。契約上の区分、成果物名、版、完了条件を一行にまとめます。
| 請求区分 | 完了条件 | 確認した記録 | 今回の判断 |
|---|---|---|---|
| 着手時 | 契約締結と着手 | 契約日、着手通知 | 前回請求済み |
| 基本設計完了 | 基本図一式提出、確認 | 提出Rev.03、確認メール | 今回対象 |
| 実施設計完了 | 実施設計図書一式提出 | 作業中、未提出 | 対象外 |
前回請求済みの行も消さず、請求番号を残します。変更契約で支払区分が変わった場合は、旧区分を上書きせず、変更日以後に適用する区分を別版で管理します。
不一致が見つかったときの戻し先
成果物が不足している場合は案件担当へ、変更合意が見つからない場合は契約責任者へ、請求履歴が重複する場合は請求担当へ戻します。すべてを案件担当へ投げ返すと、誰が何を確認するか曖昧になります。不一致の種類、必要な記録、回答期限を明記し、請求確認表に解決日を残します。
請求を見送った項目も削除しません。「次回へ繰越」「契約変更待ち」「実施中止」のいずれかを記録します。翌月に同じ確認を繰り返さず、案件終了時に未処理行がゼロかを確認できます。
AIを使うなら照合候補までにする
AIに契約書と成果物一覧を渡して差分候補を出すことはできますが、機密情報の入力可否、最新版、読み落としを人が確認します。契約条件の解釈や請求可否をAIへ委ねません。AI導入デモの準備に沿い、テスト資料、正解データ、確認者を定めてから使います。
よくある質問
成果物を送った日を完了日としてよいですか
契約の完了条件を確認します。送付、検収、承認など条件が異なるため、社内の都合だけで決めません。
口頭で頼まれた追加作業は請求できますか
依頼内容、範囲、金額、期間の合意記録を確認します。記録がない場合は請求担当が判断せず、案件責任者へ戻します。
請求書の税区分もこの記事の表で確認できますか
本表は業務記録の照合用です。税務上の記載や処理は、現行制度と専門家へ確認してください。
複数段階をまとめて請求してもよいですか
契約に定めた請求条件と顧客との合意によります。まとめる場合も、対象段階と成果物を明細で追えるようにします。
顧客から成果物の差し替えを求められた場合はどうしますか
修正が当初範囲か追加業務かを確認し、提出版と差し替え日を記録します。古い版を請求根拠に残したままにしません。
参考資料
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